二人が出会ったのは、もう何年も前のこと。
紗良里が妖精と呼ぶそれは、突然紗良里の前に現れた。

「それにしても、紗良里はよく私を見て驚かなかったもんですね。全くもって人間らしくない」
「その人間らしいとかそうでないとかのステレオタイプはやめた方がいいわよ。それに、私これでもすごく驚いたのよ?どうして妖精さんがいるんだろうって」
「……本当に妖精は勘弁してよ、鳥肌がたちそうだ」

自分の肩を抱くようにしたその人を敢えて無視して、紗良里は回想を続ける。

「今更ね。名前も無いんじゃ呼びにくいのよ。でも、唐突に『おいのち、取り引きしませんか?』って言うから、死神さんに間違えそうになったのも本当」
「あながち間違えでもないですよ」

苦笑するように妖精が指摘すると、あら、と軽く眉を上げて少女は反論した。

「死神さんはただ命を取ってしまうだけなのでしょう?あなたは違うじゃない」
「それはそうだけど、だからって私が善い存在だなんて、それは君の幻想かもしれない」
「心が読めるわけでもないのに、幻想以外の何を求めるというの?」

そんな言葉遊びのような返答に半分匙を投げるようにして、翼をぱたぱたさせながら少女に微笑んだ。

「おやおや。夢見がち少女はこれだから嫌なんです」
「お生憎様ね。関係無いわそんなこと。それに、妖精さんはとても優しいじゃない」
「そう思えるなら君がそうなんだ。私は鏡みたいなものですからねえ、憎いと思って私を見て御覧なさい、きっととっても憎まれていると感じるんだろうね」
「あら、そうなの?試してみたいけど、無理ね。妖精さんのことは好きだから」
「そりゃどうも。……私も紗良里は好きだ」
「あら、嬉しい」

紗良里はほんのりと頬を赤らめて、にこりと微笑んだ。