Case 4



 キラキラとしているのに、尖った眩しさはない。寧ろ柔らかな光はどこか懐かしくて温かい。

 ああ、このイルミネーションは、似ているのかもしれない。
 クシャリと笑う、包み込むような彼の笑顔に。





 こんなところにカフェなど、いつできたのだろう。

 明るい木材を基調とした外観には、柔らかなイルミネーションの光とリースが飾られていた。明かりの灯る出窓には、リネンのカーテンがかけられている。

 少し首を伸ばして中を伺ってみたけれど、よく見えない。

 この時季でどこのお店も混んでいる。きっとここも……。

 それでも木枠のドアにあるノブを握ったのは、この寒さに体が凍えそうになっているからだけじゃない。
 きっと心の中にある寒さを、この柔らかなイルミネーションの光が癒してくれるような気がしたからだろう。

「おや、いらっしゃい」

 ドアを開けると、とてもフランクな挨拶が聞こえてきた。
 声の方へ視線を向けると、女性がカウンターの中からにこやかな笑みを向けていた。

 店主だろうか。他に店員も見当たらないから多分そうなのだろう。
 ついでに言えば、他にお客もいなかった。

 人気のないお店なのだろうか。とてもまずいコーヒーが出てきたりするのだろうか。
 瞬時にたくさんの不安が頭をよぎったけれど、女性がどうぞとカウンターへ導くような仕草をしたのを見てしまっては回れ右もできない。

「こんな日にここへたどり着くなんてねぇ」

 たどり着く?

 なんとなく含みを持ったような言い方が気にはなったけれど、深く考える余裕など今の私にはなかった。
 だって私は、不安に勝てず、あの場所から逃げ出してきたのだから。