相変わらずのように、寄り道などせずに仕事から真っ直ぐ戻ってきていた娘は、スーパーの袋を抱えて井戸端会議から戻った私を見つけると、待っていたとばかりに高橋のことを話し始めた。

きっと、誰かに惚気話を聞かせたいのだろうけれど、友達というような相手もそれほどいない娘のことだから、こうやって母親に話す以外ないのだろう。
私も、相手があの不信感を抱いている高橋でなければ、可愛い一人娘の惚気話も笑ってやり過ごすことが出来ただろうに。

しかし、相手が高橋では、笑って過ごすどころか、今すぐにでも縁を切ってもらいたいと思うばかりだった。

私は小骨の引っかかりに気づき自分が動揺しているせいもあってか、娘の話す惚気話を遮って、とても早口に、そして、とても感じの悪い言い方で娘の結婚話に反対をした。

当然のように娘は怒り始めた。

「どうしてよっ。何でそんな急に反対だなんてっ」

いつもおとなしい娘なのに、この時ばかりは立ち上がり、身振り手振りも大きく、私に対して反抗心を露にしていた。

反対する理由がなんなのか、娘は執拗に訊ねてきたけれど、私はどうしてもそのことを言えなかった。
やっと好きになり、結婚したいと思った相手が、まさか結婚詐欺師かもしれないなどといったら、娘はとても傷つくに違いない。

私の事はいくら恨んでもらっても構わない。
けれど、それを知ったことで娘が傷つき自信をなくしてしまうのが、私は何よりも恐かった。

「とにかく。この結婚は認めませんっ」

ぴしゃりと言いきった私を、娘は呆然としたように眺めていた。

そうして、高橋という男はそれ以来この家の敷居を跨ぐことはなくなった。
同時に、娘はそれ以来、男性を家に連れてくることもなくなってしまったんだ。