「失う辛さ。残される辛さ。焦燥感。この先そんな物だけ抱えていくくらいなら、どんなことをしてでも、手をはなしちゃダメだと思うけどな」

私はゆっくりと顔を上げ、逸らしていた視線をカウンターの女性に向けた。

「それに、私なら嬉しいな。友達に誘われたら、嬉しいじゃない。ね」

女性の笑顔が、華と重なった。
ずっと一緒に遊んできた頃の華の笑顔と重なった。
高校に入学してから見ていない、華の笑顔がそこにある気がしたんだ。

「っ私!」

焦りに勢いよく立ち上がると、女性が深く一度頷いた。

「今度は、二人分のフレッシュジュースを用意して待ってるから」

鞄とブレザーを手に、私は大きく頭を下げて店を飛び出した。

春のようにぽかぽかとしていた店内を出ると外は枯葉が舞っていて、木枯らしに一瞬ブルッと体が震えた。
だけど、ブレザーを着る時間も惜しくて、私は必死で走ったんだ。
華とお揃いのキーホルダーをガチャガチャと揺らして、私は必死に足を前に出した。