* カフェ *




そこは、とある場所にあるとあるカフェであるが、今時のとは違い若干の古風さを醸し出していた。
しいて言うなら、カフェというよりも、喫茶店と言った方が解り易いかもしれない。

ほんのちょっとの不思議を抱えているこの喫茶店は、木目の造りを基調とした落着いた店構えをしていた。
表に面した窓は出窓になっており、軽く開けられた窓からは静かに揺れるカーテンが伺える。
柔らかなリネン素材のカーテンは、ふわりふわりと風を受け、店内の様子をちらりと時折見せてくれていた。

店の前には、どういうわけか四季折々の花々が植えられ花を咲かせている。

春に咲くチューリップやハルジオン。
夏に咲く桔梗やひまわり。
秋に咲くリンドウとコスモス。
そして、冬に咲く水仙と椿。

どうして四季の花々が同時に咲いているのかを、誰も訊ねたりはしない。
それは、このカフェだからなせることなのだと、訪れた人は一様に思うからだ。

少し重そうに見えるドアには、イチゴの蔓に似た葉をモチーフにしたドアノブが付いている。
その取っ手を握り締めて店内に踏み込めば、心地よく酔いしれてしまいそうな馨しいコーヒーの香りに包まれる。

「いらっしゃい」

カウンターからかかる声に目を向けると、一人の女性がカップを丁寧に磨きながら迎えてくれた。
その表情は落着いていてとても穏やかなせいか、何もかもを受け入れてもらえるような気持ちになり、ほっと息をつくことができた。

「疲れた顔をしているね」

その言葉に頷いて、私はカウンターの真ん中の椅子にストンと腰をおろした。

「ねぇ、時子さん」

私がそう言うと、みなまで言うなとばかりに時子さんは一つ頷く。

「待ってな。今飛び切りのを淹れてあげるから」

カウンターの後ろに並ぶ沢山のコーヒー豆の中から一つをチョイスし、頼もしい時子さんが微笑みを向ける。
私は、それだけでも久しぶりにここへ来た甲斐いがあると思うんだ。