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天宮の試合が終わった後、俺は部屋に籠り、山の様な書類に筆を滑らせていた。

やってもやっても終わらない。書類に苛立ちが積もる一方だ。

「あ゛~疲れた……」

眼鏡を外し、固まった肩を回す。すると、襖の外から声を掛けられた。

「副長、お茶をお持ちしました」

「斎藤か、入れ」

「失礼します」

斎藤は部屋に入ると、文机に湯飲みを置いた。

「ありがとな」

「いえ」

湯飲みに手を掛けても、斎藤は俺の部屋を出ようとはせず、俺をじっと見ていた。

「他にも用があるのか?」

「ええ、天宮のことです」

天宮か。

いつか天宮関連で斎藤が来るとは思ってはいたが、ずいぶん早かったな。

「なぜ、副長は天宮を小姓にしようと思ったのですか?」

「あいつを小姓にしたいと思ったからだ。それ以外に理由はいるか?」

「ですが、昨日までは疑っていたではありませんか」

まぁ、確かにそうだが。

「総司に入隊を拒否された時のあいつの顔を見たか?天宮は本当に悲痛な顔をしてやがった。

あの表情が演技だとは到底思え無かったんだよ。疑った自分が馬鹿馬鹿しくなっちまった。

後はそうだな、天宮の気の強さも結構気に入っていたからだな。傍に置いといたら面白そうだと思ったんだよ」

「面白そうですか……」

「面白そうだって理由で天宮をここに連れてきたおまえが、浮かない顔するんじゃねえよ」

そう言うと斎藤は口を閉ざした。