龍馬さんの隣にちょこんと腰を降ろして、徳利を差し出します。

「1回だけですからね」

「ん」

龍馬さんの口が満足そうに弧を描きました。

お酒を注ぐとすぐに飲み干して私にまた徳利を差し出します。

「もっと」

「……あの、私1回だけって言いましたよね」

「忘れた」

忘れたって、まだ言ってから30秒も経っていませんよ。

「早く」

「……分かりました」

それから数回お酌をしたのですが、龍馬さんは一向に私を解放してくれませんでした。

むしろいつの間にか腰に龍馬さんのたくましい腕が巻き付いていて、拘束が厳しくなっています。

周りにいる芸妓の皆さんが「いいな」といいながら羨ましそうな視線を向けてくる。

変われるものなら変わってあげたいですよ。

この前組長とお出かけをした時、口の端だったとはいえキスされてるところを見られたんですからね。

私さっきから純度100%の気まずさと戦っているんですよ!

「うちの龍馬がすまねえな」

ヅラさん、そう思ってるなら私から龍馬さんを引き剥がしてください。

「最近、そいつ目に見えて元気がなかったんだ」

「そうだったんですか?」

「ヅラ、余計なこと言うな」

思わず視線を向けると、龍馬さんは私を見ずにお酒を飲んでいました。

お腹に回された腕に微かに力が込められる。

強くなった龍馬さんの温もりを感じた途端、胸の音が一際大きく高鳴った。