すると明里さんは箱に入った簪を静かに撫でました。

「ウチは誠実で優しい山南さんだから好きになったんや。だから、刀が振れなくても気にせえへん」

「その言葉、山南さんに直接言ってあげてください。山南さん、絶対に喜びますから」

「でも……」

明里さんの表情に不安の色が浮かぶ。

一度、山南さんの告白を断ったため、許してくれるか心配なのかもしれません。

「明里ちゃん、何があっても一度っきりの人生。後悔せえへんようにせなあかんよ」

千代菊さんは俯く明里さんの両肩に手を置きました。

「好きな人の前で素直になればええの。明里ちゃんと山南さんなら大丈夫や」

「千代菊はん……」

明里さんの不安に満ちた目が私に向けられました。

「自信を持ってください!山南さん、明里さんのこと素晴らしい女性だと言ってましたよ!

それに、山南さんは一度断られたからって、明里さんのこと嫌いになったりしませんよ」

簪を私に渡すとき、山南さんはすごく悲しそうな顔をしていた。

それって、まだ明里さんのことが好きだからだと思う。

だから明里さんは心配する必要なんてありません。