「紗姫様。」

仕村が言う。

「何?」
「これで…失礼いたします。」
「どういうこと?」
「お暇を頂く、と申しましょうか。」
「ん…?」

イマイチピンとこない私の耳元で、菜月くんがささやいた。

「紗姫の執事を辞めるってこと。」
「えっ…。」

何故だろう?

最初の頃はただのおせっかいな執事だったのに、今は離れたくない。そんな自分が、確かにここにいる。

「私も、いつまでも紗姫様にお仕えするわけには参りませんので。」
「何で…?」
「これが終われば身を引くように、と言われております。」
「誰に?」
「それは…お答えできません。」

仕村の表情は曇っていた。

「ねえ、仕村。」
「いかがなさいました、紗姫様?」
「…元気でね。」
「はい。」
「紗姫、どうしたんだ?」

今度は私が菜月くんにささやく。

「騒動を収めてくれたから、そういう頼れる人とさよならするのってちょっと辛くて。」

そういうもんだろ、と菜月くんは笑ってくれたが、私にとってはそれ以上のものだった。