「菜月くん、どうしたの?」
「どうしたの、じゃないって。」

菜月くんはドアにもたれかかってため息をついた。

「どんだけ心配したと思ってんだよ、紗姫のこと…。」

すると、菜月くんは私を引き寄せ、抱きしめた。

「また会えてよかったぜ、本当…。」

菜月くんの声が、私のあごに伝わる菜月くんの肩の震えに比例していた。

「…昨日家に帰ったらいなくなってて…その時、俺、泣いちゃったから…。」

思えば、菜月くんはめったに泣かない。感動モノの映画を見たって、「泣いてる所を見られたくない」と、涙をこらえて、そしていつのまにか涙がひくという、私にとっては羨ましいことこの上ない能力を持っているのだ。

でも…一人だと、泣く時もあるんだ。

きっと、普段人前で泣かないから、一人の時に思う存分涙を発散しているんだろう。泣きたくなっても、そこでは感情を押し殺して、一人になった時にその分の涙を流す。

そうする理由は、分からない。だけど、今泣いている理由は分かる。

その場じゃ抑えきれないほどの感情が、菜月くんの涙を押し出している。

それくらい、私は菜月くんを心配させてしまっていた。

「…ゴメン、菜月くん…。」

さっき、菜月くんのことを羨ましいと言ったが、もし今私が菜月くんと同じ能力を持っていたとしても、私はきっと同じように泣いていたかもしれない。

廊下には、私達以外誰もいない。だからある意味、菜月くんにとっては「一人」なのかもしれない。

私だって、同じように泣いているんだから。