そう言って、ふいに私の手を掴んでいるのとは違う方の速水くんの手が私の頬をかすめた。
さすがにびっくりして、思わず半歩、後ずさる。
だけど。
「っ!」
突然、視界がブレた。
それが速水くんに肩を掴まれ身体を反転させられたせいだと気付くまで、だいぶ時間がかかったと思う。
目の前にあるのは、速水くんの綺麗な顔。
背中に感じる壁の冷たさ。
そしてその壁に押し付けられるように掴まれた手首。
……な、なに、この状況。
「……いきなりどうしたの?手首、痛いよ」
今までにないくらい近い距離が恥ずかしくて、思わずぱちぱちと無駄に瞬きを繰り返してしまう。
速水くんがどうして私を壁に押し付けているのか、まったく分からないんだけど、それも私の頭が弱いせい?
「……」
私の疑問に答えないまま、速水くんは黙って私の目をまっすぐに見つめてくる。