「……」

触れるだけのキス。

静かに私の唇を解放してくれた速水くんは、しかし触れそうな距離のまま、私の目をじっと見つめてくるから、心臓のドキドキは全然鳴り止んでくれない。


眼鏡を外した彼の瞳は、威力抜群だと思った。

吸い込まれてしまいそうな漆黒の瞳はどこまでも澄んでいて、見ているだけで心がギュッと痛くなるくらいに魅了される。


ドキドキする胸が苦しくて、この甘くて強い視線から早く解放してほしいと思うのに、自分からは絶対に逃げられない。


「……そんな泣きそうな顔、するなよ」

どこか苦しげな彼の声に、私は驚いてしまった。

「な、泣きそうな顔なんてしてないよ」


そう答えると、速水くんはキュッと眉をひそめる。

そしてこぼれた、小さなため息。


「自覚ないの?……あんたホントにタチ悪い」

「何そっ、!?」

何それ、そう言いかけた唇が再びふさがれて、しかも今度はなかなか解放してくれない。

触れる熱はとても甘くて、頭がくらくらする。


どうしたらいいのか分からないまま、ただ必死に私は彼の背中に回す腕にギュッ、と力を込めた。