「は、速水くん?何?どうしたの?」


「晴山さんって」


私の手を掴んだまま、私を見下ろしてくる速水くんの顔は、どこか苦しそうで。

眼鏡の奥、私をうつすまっすぐな瞳は、勘違いかもしれないけど、切なげな色をしているように見えた。

キュッと眉を寄せたその表情は、今まで何度も見てきた。


……でも。

その切ない感情の矛先は、いつだって志賀先輩だったから。

隣にいるのは私でも、速水くんの強い気持ちの先にいるのは、私じゃなくて志賀先輩。

だから。

速水くんの切なそうな色をした視線を向けられて、心臓がギュッとなったのも、どうしてか泣きそうな気持ちに駆られたのも。

今が、初めて。


「晴山さんって、もっと単純だと思ってたのに」


「……え?」


「なんでだろ。……今は、陽より難しい気がする」


ふ、と小さく笑って速水くんはそう言うと、私の両手をするりと解放してくれた。