教室に入ってすぐ、小さな身体が抱きついてきて、びっくりしてしまう。
「わっ、夕衣(ゆい)さん!びっくりした~」
抱きついてきたのは、3年生の武田夕衣(たけだ ゆい)さん。
小柄で人懐こい夕衣さんは、なんと私の隣の席の羽依ちゃんのお姉さんだ。
しっかり者の羽依ちゃんとはあんまり似てなくて、初めて姉妹だって知った時はすぐには信じられなかった。
「明李ちゃんが来なくて始められなかったんだからね!ほら、はやく準備して~!」
私から離れて不満気に頬を膨らませた夕衣さんは、先輩に言う言葉じゃないかもしれないけど、女の私から見ても本当に可愛い。
「まったく、自分で抱きついて明李ちゃんの動き止めてたくせに、よく言うよね」
クスクスと笑ってそう言ったのは、時谷果歩(ときたに かほ)先輩。
私の部活の部長さんだ。
「よーし、じゃあ全員そろったし、はじめよっか!」
パン、と手を叩いて空気を一気に引き締めるのは、果歩先輩の得意技。
私の部活は、夕衣さんと果歩先輩の3年生ふたりと、1、2年生も4人だけという総勢6人しかいない。
毎週木曜日。
この調理室で行われる部活が、私にとってなによりも楽しみな時間。
料理研究部、なんてちょっとよくわからない名前だけど、やっていることは、好きなものを作って、好きなだけ食べているだけ。
そんな時間が、私にとって、すごく幸せな時間なんだ。