ボールペンを握ったまま呆然としていた私の手を、ギュッと上から握ってきて、無理矢理署名させようとする速水くんに、私は何が何だかわからないうちに自分の名前を書いていた。


「ん。よし。じゃあこれ、出しとくから」

ニヤッと笑った速水くんが、私の手元から申込み書を抜き取ると、ガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。

そのまま私を置いていくのかと思ったけど、まだ混乱している私の手を引っ張って立ちあがらせてくれ、そのまま生徒会室を後にした。


「あ、そうだ」

速水くんは私と教室の棟が違う。

生徒会室があるここから隣の棟に行く別れ道、速水くんが私の手を離しかけて、しかし突然また強く握ってきた。


驚いて顔を上げると、ばちっ、と視線がぶつかる。

瞬間、彼が微かに目を細めて。

それが今まで見たことがないくらい優しい笑みだったから、思わず目を瞠ってしまった。