「よかった~!じゃあ、よろしくね」
くるり、と俺に背中を向けた陽の髪に手を触れた瞬間。
その癖(くせ)のないさらさらとしたまっすぐな髪とは違う、柔らかい猫毛を思い出して、一瞬手が止まったけれど。
どうしてこんなにも、さっきの感触が残っているのかは考えないことにした。
「あのさ、遥斗」
「……何?」
渡された櫛で梳きながら髪をまとめている途中、呼びかけられて答えると、陽は少し間を置いてから再び口を開いた。
「……晴山さんのこと、連れてきてくれてありがとうね!少し話しただけでも、すごくいい子だってわかるよ」
「陽が連れてこいって言ったんだろ?」
陽の言葉の前に空いた少しの間で、今、彼女が口にした言葉は本当に言いたかったこととは違うことなんだと分かったけど。
それには気付かないふりをして、言葉を返した。
……きっと今、陽は俺に謝ろうとした。
なんとなくそう思ったから。