次の日から、心臓の精密検査をした。

元々、刃物が心臓を掠めていたとは聞いていた。

でも、先生は私が過呼吸を起こした時、胸をかばっていたことを覚えていて。

心臓にも、問題が生じている可能性があると言った。



「ごめんね、ちょっとヒヤッとしますよ。」



暗い検査室で、技師さんが私の胸のあたりにゼリーを塗りながら、エコーの器械を動かす。

恥ずかしいし、息苦しいし。

早く終わってほしいと、ひたすらに願う。



「失礼します。」



聞きなれた声が聞こえて、私は身を強張らせる。

麻生先生に、こんな姿を見られたくないと思ってしまって。


だけど先生は、私の不安とは裏腹に、私の方は見なかった。

ただ、食い入るようにエコー検査の画面を見つめている。


いつまで経っても無言の先生に、私は怖くなった。


しばらくして、検査が終わって。

寝間着を着てカーテンの中から出て行くと、麻生先生が待っていてくれた。



「麻生先生。」


「はい。」



不安気な私の顔を見て、安心させるように先生はにこっと笑う。



「さあ、次は心電図を測定しましょうね。」


「先生がやるんですか?」


「違いますよ。検査室に行って、看護師さんに検査してもらいましょうね。」


「えー。」


「僕がいいですか?」



いたずらっぽく笑う麻生先生に、つられて私も笑ってしまう。


結局、先生は検査室の入り口まで一緒に来てくれた。



「すみません。外来があるので、僕はここで失礼します。」


「……ありがとうございました。」



そう小さな声で言うと、先生は一瞬目を開いて、それから優しく笑った。



「検査が終ったら、部屋でいいコにしてるんですよ。脱走したりしないで。」


「はーい。」


「西條さんは、ノラ猫みたいに逃げますからね。」



くすり、と笑って先生は私に背を向けた。

真っ白な白衣が眩しい。


先生は優しいけれど、たまに意地悪で。

私を困らせて、楽しんでいたりする。

私の心に知らぬ間に入り込んできて、私を一人にさせない人。

麻生先生は、とても不思議な先生だった。