目が覚めた。

あったかい。

ここはどこだろう。


規則的な足音が、響いている。

私はどこかに運ばれているのだろうか。


薄目を開けると、病院の廊下が見えた。

この廊下のつきあたりに、私の病室があるはずだ。


下ろしてもらおうかと思ったけれど、やっぱりやめた。

私はもう一度目を閉じて、先生の腕に身を委ねる。


子どもの頃も、こんなことがあったな、と思う。

ドライブの帰りに眠ってしまった私を、抱き上げる父の手。

目を覚ましても、眠ったふりをして。

運ばれるのが、心地よかった―――



「さあ、着きましたよ。おはよう、西條さん。」


「……。」



てっきりばれていないと思ったのに、私が起きていたのは気付かれていたらしい。

極まりが悪くて頬を染めた私を見て、先生はふっと笑った。



「麻生先生。」


「はい。」



にっこりと笑った先生の手のひらが、私の頬を包む。



「よく眠っていましたね。怖い夢は見なかったでしょう?」


「うん。」


「西條さん、無理してるのは分かっていましたけど。こんなに思いつめるまで放っておいて、すみません。僕のせいです。」


「え?」


「とっくにこうしてあげたらよかった。西條さんに、助けて、って言わせる前に。」



先生がぴったりと私を抱き寄せる。

その温度に、何もかも忘れていられる気がした。


わかってる。

私は特別に可哀想な患者だから。

だから先生は、こんなふうに優しくしてくれる。


でも、そんなことどうでもよかった。

先生だけが、私の味方だと思った。


ぐるぐると考えているうちに、私はまた先生の胸で眠ってしまった。

私は、それを幸せに感じた―――