「莉那ちゃん。」


「あ、叔母さん。」


「起きなくていいのよ。これ、よかったら食べて。」


「すみません、叔母さん。」



叔母は、いつも突然やってくる。

食欲なんてないのに、甘ったるいブラウニーなんかをいつも携えて。

要らないなんて言えないから、私は無理して食べて、残りはわざわざ遠くのゴミ箱まで片付けに行く。



「莉那ちゃん、それで、この間の話なんだけど……、」


「私は、両親と暮らしていた家で一人で暮らします。」


「でも、」


「叔母さん、すみません。無理は承知ですが……。」


「いいえ。高校生のあなたを、一人であの家に置いておくことなんてできないわ。何度も言うけど、あの家は売って、」


「ちょっとごめんなさい。気分が悪くて……。」



私は、ヨロヨロと立ち上がって、点滴の台に掴まりながら病室を出た。

叔母は、何か言いたげな視線を、ずっと私に向けている。

私は、そんな叔母から少しでも遠ざかりたくて、点滴台を転がしながら廊下を歩いた。



「たすけて。」



自分でも意図しないうちに、そんな言葉が零れ落ちた。

同時に、せり上がってきた涙を、私はじっとこらえる。

喉が、ひりひりする。


分かっている。

私は、何もできない無力な高校生だ。

両親のお葬式やら、納骨やら、それらをすべて叔母が手配してくれたということも。

簡単には返せない恩があるのは、分かっている。

家を売ったお金も財産も、すべて叔母に渡して、そのお金で養ってもらうのが筋。

それも、分かっているけれど―――


だけど、私が生まれてから今まで、ずっと両親と暮らした家を。

簡単に手放すことなんてできない。


どうしたらいいんだろう。

私は、どうしたら。



立ち止まって、窓から外を見る。

木々の葉が紅葉するには、まだ早いけれど。

北風が枝を揺らして、病院の中にまで冷たい風が流れ込んでくるようで。

私は、自分の両腕を抱きながら、ぶるり、と震えた。



逃げよう、と思った。

ここから逃げて、あの家に帰れば。

元の日常が、そこにあるような気がした。

玄関の扉を開けて、あの日をやり直したい。

誕生日のケーキは、まだ冷蔵庫に入っているの―――?



私は、そのまま病院から疾走した。