それは、雨の降りしきる夏の終わりのことだった。

いつも通り、帰宅した私は玄関のチャイムを鳴らした。

お気に入りの制服が、雨に濡れてしまうのが嫌で。

いつもさしている、大きめの傘を畳みながら。


いつものように、ドアが開いて、微笑みを浮かべた母がお帰り、と言った。

その向こうのドアからは、父の顔が覗く。



「あれ?お父さん、もう帰ってるの?」


「今日は年休を取った。当たり前だろ?だって今日は―――」



そう、あの日は、私の誕生日だった。



「莉那、今日はパーティーだ。」


「やったあ!」



私の両親は、一人娘の私の誕生日を、いつも盛大に祝う。

私がお母さんのお腹の中にいるときに、首にへその緒が巻き付いて。

死んでもおかしくない状態のときがあったみたいで。

両親は、そのとき初めて、神に祈ったらしい。

どうか、どうかこの子が、無事に生まれてきますようにって―――


だからなんだ。

私が一つずつ年を重ねる度に、こんなにも喜んでくれるのは。



「ほら、早く入りなさい。」


「はーい。」



まさか、それが最後の会話になるなんて、思ってもみなかった。

まさにこれから、楽しいことが始まる予定だったのに。

あの、温かい家庭は……、二度と返らない。