「うお、寒いな。まだコートが必要だったか、、」
仕事帰り、一人コンビニの袋をぶら下げ、川沿いを歩く。
人びとが少し陽気になる春。
春と呼ぶにはまだ少し風は冷たいが。
風は季節を告げる。
時に想いや香りをのせて------
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「ねえ、恭ちゃん。、、、好き。ごめんね。」
あの日僕は初めて君の涙を見た。
亜香里(あかり)と僕は小学校の同級生で家も近く、よく一緒に川沿いの道を遊びながら帰った。
いつからそう呼ぶようになったかわからないが彼女はいつも僕を『恭ちゃん』と呼び、笑って隣を歩いていた。
僕は彼女が好きだった。
きっと初めて彼女が笑いかけてくれた時からだろう。
好きだと自覚したのは中学にあがり、『亜香里ちゃん』から『亜香里』と呼び方を変えた時だ。
驚き、頬を染めた彼女の、初めて見る姿に素直に好きだと思った。
三年に上がっても、相変わらず二人並んで川沿いの道を帰った。
今思えばその頃からだろう、亜香里が辛そうに笑うようになったのは。
本当は気づいていた、彼女が何かに悩んでいることも。
この頃の僕は成長期で、気が付くと180センチを超えていた。
中学生の女子にとって高身長でバスケ部、それなりに運動も勉強もできた僕は、かっこよく思えたんだろう。
ひと月に一度は告白されるようになっていた。
亜香里が僕を避けるようになる前日も、いつものように部活終わり肩を並べて川沿いを歩いていた。
「あ、あのさ!、恭ちゃんって「おーーい!!恭弥(きょうや)!今帰りか??」
クラスは違うがバスケ部で仲のいい理久(りく)に声をかけられた。
「なあ亜香里ちゃん、知ってる?今日もこいつ告白されたんだぜ??あんな可愛い子に告白されたのに振るなんて何様だよ!」
「おい、理久!」
「いやまじでなんでいつも断るんだ?」
あの時きちんと伝えられていれば変わっただろうか。
「お前、モテるからって調子のんなよ、痛い目見るぞ、じゃあまた明日なー」
理久は亜香里に言いたい放題いった後、嵐のように去って行った。
「理久くんって、恭ちゃんのことほんとに好きなんだねえ、、」
ふふふ、と笑いながら僕に振り向く。ふわっと彼女の甘い香りがした。
「でもさ、恭ちゃん、なんで?なんで断ってばかりなの?」
まさか彼女に聞かれるとは思っていなかった。彼女はいつも僕が告白されても何も感じないような素振りを見せていたのに。
「別に、亜香里には関係ない」
素直に好きだと言えていれば、
「、、そっか、そうだよね、でもさ、私には関係あるんだなあ、これが。へへ」
何とも言えないような苦笑いの亜香里の顔を見ることも、
「、、おい」
その顔を見て胸がひどく傷むこともなかっただろう。
「ねえ恭ちゃん、私邪魔かなあ?」
---ドクン-
「は?何言って「私がいるからだよね?」
何を言われているのかわからなかった、けれどひどく嫌な予感がした。
「ちょっと待て、亜香里、何が言いたい」
「帰ろうって言ってくれることも、おはようって声かけてくれることも、恭ちゃんから何かしてくれることなんてなかったもんね。全部私からで、私が何もしなきゃ繋がりなんてないもんね、、、、」
そんなこと考えもしなかった。いつも気づけば亜香里がいて、それを当たり前だと思っていた。
「いや、それは、、
「ねえ、恭ちゃん、、、好き。ごめんね。」
君は泣いた。
--------フワ、、
彼女の甘い香りがひどく鼻に残った。
彼女は僕のそばにいなくなった。
どうすることもできず、部活や勉強に打ち込んだ。結局そのまま卒業し、僕は市外のバスケ強豪校に進学した。
理久の言葉通り『痛い目』を見た。