前の通りは交通量が多くて、車が行き交っていたけど、そんなの気にしてられない。

というか、車なんて見えていない。

その時の私には視覚など存在していなかった。

見えていたのはお母さんの姿だけ。


『プっ、プー!!』


クラクションの音でお母さんがこっちを向いて私に気づいた。


「梨織!! 危ないじゃない」


「お母さん……。心配したんだから。うちへ帰ろう」


「……」


「帰ろうよ!」


「もう帰れないわ。お父さんには離婚届送っておくから」


「だめ。お父さん、借金の事知ってるよ。それでも心配してるんだから。とにかく一旦帰ろうよ」


そう、一旦、帰ってもらわないと困る。