カフェに着き、座り心地の良いソファーに深く腰を沈め、ぼんやりと窓の外を眺めながらデザインカプチーノを飲む。
昨日も来たからと気を使ってくれたのか、今日のカップの中には、くまさんがいた。
マスターは四十歳くらいで、彫りの深い顔立ちだった。くっきりした二重が優しさを醸し出している。笑った時にできる目尻のシワもゆとりがある大人の魅力。
ダークでモンスターな洞窟からは脱出したけど窓の外の風景は特になにも変わらない。
通りを挟んだ向かいは工事現場で見ていても退屈だった。マンションが建つらしい。
この辺りはマンションばかり。
高層階からは海が見える。
駅が近くて通勤通学も便利だし、高額でも売れているようだ。
私も、もしマンションに住むなら海が見える部屋がいい。でも今住んでいる家が一番好き。
ケータイを見てみるけど、それも特になにもない。今は焦らずに返信している。
なにか持ってくればよかったな。
ふと、隣の席の女性を見ると本を読んでいた。
私は情緒的で読む人により答えが変わってしまう『本』が好きではない。
読むのは読書感想文を書く最悪な時だけ。
あとがきから読み始め、あらすじがわかれば全部読まなくてもなんとかなった。
好きなファッション雑誌か数学の教科書を持ってくればよかった。
もう六時半。
最近はお父さんの帰りも早いし、そろそろ帰って夕ご飯の支度をしなくちゃ。