玄関の側に置いてあるライトブルーの自転車。天野くんがその自転車の鍵を開けた。
「後ろ、乗って」
「二人乗りは、だめじゃない?」
「梨織は真面目だな。天然系真面目女子」
「違うもん。私、天然なんとかなんとか女子じゃないもん」
「天然系真面目女子な」
私は天然故に天野くんの変な日本語を暗記できなかった。
あれっ?
りんごちゃんの天使マーク。
りんごちゃんという天使が自転車の周りを飛んでいた。
『さあ、買いに行きましょう』
天野くんが変な日本語を使うから、見えてはいけないものまで見えてしまい、声まで聞こえてしまった。
仕方なく自転車の後ろに座って、天野くんの背中にしがみつく。
長い坂道を駆け下りるわけでもなく、ただ平坦な道をゆくだけ。なのに、堰を切ったように涙が溢れてきた。
その背中が温かくて。その背中から感じる天野くんの鼓動に安心して。