「うまそう。俺、ビーフカレーめちゃめちゃ好きなんだ」


「ごめん、今夜はチキンカレー」


私のテンションは異常な程低め。というか、へこんでる。


牛肉と鶏肉を買い間違えるという致命的な状態。


「いや、いいんだって。俺、チキンカレーも好きだからさ」


「ならよかった」


二人でカレーを食べる。

無言のため、空気が揺らぐ事さえない。

ちょうどいい辛さのため、水も飲まない。


「あのさ」


「やっぱりビーフがよかった?」


「そうじゃなくて。梨織、なにか言いたい事あるなら言えよな」


「……」


言いたくても言えないからサラダのミニトマトを食べてみた。


「俺、こういうのヤなんだ。なんかもやもやする」


「わかりました。じゃあ言います。蒼太くんは、天野蒼太は私、玉置梨織の事をどう思っているのですか」


「好きだよ」


その答えがあまりにさらっと返ってきて、私の頭の中は真っ白になった。


そんな私の唇に天野くんのぽってりとした唇が触れた。

やわらかい。でも……。


「待って。カレーの味がする。初めてのキスがカレー味って」


「梨織、初めてなんだキスするの」


私の全身が真っ赤になっていく。

走り出したい、どこか遠くまで。

全力疾走で。


私が立ち上がる前に、天野くんが立ち上がった。

なに、どこ行くの。