「天野くん、梨織がお風呂入ってる時に入ってきたり、ベッドで寝てる時に入ってきたり?」
私は首を横に振った。
「入ってこないの?」
「入ってこないよ」
「梨織、もっと女として見てもらわないとダメだよ」
ルミにそう言われて気づいた。
天野くんは私をどう思っているんだろう。これから先、少女漫画に出てくるような胸キュンは、あり得るのかな。
「梨織が手出さないなら、ルミが出すよ。天野くんに手」
「ちょっと、ルミ……」
「それは嘘だけど、他の女に出されるよ、手」
今夜はカレー。出されるかもしれない女子のしなやかな手が目の前をチラチラモザイクのように瞬いていく。
それが心配で隠し味となる恋のスパイスを入れ忘れた。
集中できなくて、じゃがいもの切り方も変。
人参はハート型にしようと思っていたのに、普通に切ってしまった。
福神漬けも買い忘れちゃったし。