「うまいっ。このツナマヨ」


うまい、ってそれも缶詰だよ。ツナ缶にマヨネーズと塩を混ぜただけだし……。


「超うまい、このっ」


「鮭フレーク、でしょ」


「違うよ。ハンバーグが超うまい」


「本当?」


「ほんとほんと」


天野くんがリスみたいにハンバーグを口に詰め込んで、もぐもぐしている。かわいい。


「梨織のお母さん、料理上手なんだな」


「よくわかんない。あんまり作ってもらった事ないから」

「じゃ、このハンバーグ」


「料理は全部、本かネットで検索してる。大体毎日作ってるけど、お父さんもお母さんも帰りが遅くて、一人で食べてた。おいしくできても食べてくれる人がいないと、ただの無駄になるような……、そんな気持ちがして……」


「そっか。じゃあ、きっと俺のために作ってたんだな」


「ん?」


「俺に作るために毎日練習してた、って事。無駄じゃなかっただろ」


天野くんはそう言いながら、人参のグラッセを口に入れると笑顔をくれた。


「うん。無駄じゃなかった。ありがとう」


「俺の方こそ、ありがとな」

ありがとう、なんてまた泣けちゃうよ。


「なに、泣いてる?」


「玉ねぎが目に染みちゃって」


「今頃かよ。やっぱ梨織は天然だな」


「違うもん。蒼太くんのイジワル」


私がそう言い終える前に天野くんの指が私の頬に触れた。涙を拭ってくれたのだ。