十五分位歩いただろうか。

天野くんが立ち止まったのは、多摩川沿いにある一軒家の前だった。


「ここ、俺んち」


ジーンズのポケットから出した銀色の鍵でドアを開けた。

ん? 明かりがついてない。


「ねえ、天野くん、お父さんとお母さんは?」


「アメリカだけど」


「へっ?」


予期せぬ答えに、私の中から予期せぬ寝ぼけたような声が夜空へ筒状に抜けた。


「まあ、上がって」


「ちょ、ちょっ。えっ、な、なに。って事は、今夜、天野くんと私の二人きり?」


「はい。よく理解できましたね」


天野くんは私の肩を抱き寄せるようにして玄関のドアを閉めた。

鍵もしっかりと。



緊張で固まっている身長一五七センチのこの体。


「なに、怖い? 死のうとしてたのに男が怖いのかよ」


「そ、そうじゃない。ちょっとびっくりしただけで、なんでもない」


動揺を隠すように、素早く靴を脱ぎ、勝手に上がり、すぐそこにあったドアを開けた。