零士とプールサイドにいるうちに服も乾いてきて、バイクで家まで送ってもらった。
もう怖くなかった。
「じゃあな」
「うん、ありがとう。あっ、明日のライブも行くからね」
「おう、最高のライブにするから。それじゃ、おやすみ」
「おやすみなさい」
こうして零士の温もりをもらったのに、ベッドに入ると嫌な夢ばかり見た。
あの抹茶パフェの苦味や噴水の吹き上がる音がリピートされて舌と耳に焼きついていく。
夢というより、現実と幻想の狭間のようで。
時計を見るとまだ夜中の二時だったけど、明かりをつけて、ベッドに座った。
「私、素直になんてなれるのかな……」
そう呟いて何度も溜め息をついた。
零士はバイトのお給料でギターという夢を買ったけど、私が買った浴衣の夢はどこへ行ってしまったのだろう。
夢が蝉のように儚い命だったとしたら、もう叶う事はない。
正面を向いてみたいけど、私は現実から逃げるばかりだ。
せめてこの部屋から海が見えたらいいのに……。