確かに零士の言う通りだ。
天野くんを幸せにできないから別れて、いつか他の人とつき合って、もしかしてその人と結婚して子供が生まれて。
そこで私が虐待をしたら、子供も旦那さんも不幸になるんだ。
天野くんにはできない事を他の人にしようとしていた。
「君はそんな事、する子じゃないよ。虐待なんてするお母さんにはならない。なんて、オレは言わないよ。大体、自分ひとり悲劇のヒロインぶって。そういう奴、オレは大嫌いなんだ」
「ひどい……」
「ひどくなんてない。君が贅沢なんだよ。大切な人となんてそんなに出会えないものだろ、この世の中。その大切な人を君は手放していいの?」
「いいわけないじゃん。いいわけないけど」
「だったらさ、天野って奴の事、もっと大事にしろよ。自分の気持ちに素直になれって」
「……うん」
そう返事をしたものの、素直になれそうもなかった。時計の針が左回りに進まないように、胸を渦巻くモノの渦も逆回転させられない。