零士の家は池袋にあるマンションの八階。
二人きりのエレベーター。
私は普通にしているつもりだったけど、きっとどこかぎこちなくて。それが零士にも伝わっているような気がして、一言も喋らなかった。
「ここ、オレの部屋」
八〇五号室。
零士が鍵を開け、私を中に入れた。
一LDK。
モダンな雰囲気。
艶のあるフローリング。
零士はギターケースからギターを出してそこに置いた。
「適当に座って」
私はベッドの上ではなく、フローリングの床にぺたんと座った。
「体調悪かったら横になってな」
「ううん、平気」
零士の手が切り過ぎた前髪を揺らし、おでこに触れた。
「熱もなさそうだし。バイトは順調?」
「まあ、なんとか」
「オレも高校の時、バイトしてたな。その給料であのギターを買ったんだ」
零士は穏やかな目でギターを見ていた。
「君は? なにか買った」
私の頭の中に水色の紫陽花柄の浴衣が浮かんだ。
「浴衣を……」と言ったとたん、泣けてきた。
「なに、急にどうした」
「なんでもないです」
「なんでもなくないだろ。話くらい聞いてあげるよ。なにもできないかもしれないけど」
私は零士のその優しさに甘えようとして、天野くんとの事を話した。
言い訳とかじゃなく、ありのままに。