ライブハウス特有の酸欠とか脱水症状とは違う。

スピーカーから漏れる音が耳の中でさざ波のように寄せては返す。

聴覚では捉えられない音の波。


零士が曲の合間に言った。


「もし、体調悪い人いたら、周りの人に声かけて、その場に座っちゃっていいからな」

その言葉も幻想チックに聞こえた。

でも、多分、私に向かって言ってくれてるんだと思った。


ライブの後、新宿の街を零士と歩いた。


「どうかした? ライブ中も元気なかったし」


「ステージからファンの顔って見えてるんだ」


「見えてるよ。ライトの加減にもよるけど。体調悪いならどっかで座る?」


「……ねえ、私、零士のうちへ行きたい」


「いいよ」


その答えに胸が痛んだ。

もう痛むはずのない火傷の跡が。


やっぱり私、天野くんが好き。

このまま好きでいちゃいけない。



交差する心を抱えて、私は零士の家へ行った。