途中、歌舞伎町でスーツ姿の男性に何度か声をかけられたけど、振り返らず、姿勢を正して真っ直ぐ前だけを見て歩く。
でも、一度だけ立ち止まった。
「レッドポイントってどこですか?」と、逆に聞いたのだ。
ケータイで地図を見ても場所がわからなかったから。
と、いうか、私は逆方向に歩いていたらしい。
ホストみたいなその人は案外親切で、信号がある別の通りまで出て、教えてくれた。
レッドポイントは飲食店の地下にあった。
階段を降り、中へ。
モニターのついた大きな柱が真ん中にあって邪魔だった。
その柱より前に行きたい。
願いが叶って前から二列目の中央を確保できた。
それなのに、零士の声が耳を擦り抜けて行く。
今日こそ全てを忘れなければならないのに。
ライブハウスの中を渦巻く波に乗れない。
私のいる場所だけが、異空間。ぽっかり穴が空いたかのようだった。