私は自分の思いを押し切れなかった。
そんな私にお母さんが言った。
「ねえ梨織、帰る時、駅に着いたら必ず電話しなさい」
「うんわかった」
「ほら、あなた、梨織を信じてあげて」
お母さんのその言葉でお父さんがやっと頷いてくれた。
よかった。これでまた明日、ラズベリースターの歌が聴ける。零士に会える。
「お父さん、お母さんありがとう」
『チケットお願いしたいんですけど』
翌日から私はお客さんがチケットの発券に来ると誰のライブかと、つい、見てしまうようになった。
もし、ラズベリースターのチケットだったら『私もファンなんです』と声をかけてしまうだろう。嬉しくて。
バイトを終えると、すぐに渋谷のムーンライトへ向かった。
早くチケットを買って、前の方で見たかったから。