もしかしたら零士の脳には顔認識装置が内蔵されているのかもしれない。

私はお客さんの顔なんてほとんど覚えていないし、学校の同級生の顔だってよくわからないくらい。

私の脳では顔認識装置のスイッチが常にオフ状態なのだ。

だからこそ、それでも覚えていた零士はどこか特別な存在だった。


「ど、どうも。いつも二円、ありがとうございます」


私は咄嗟に訳のわからない事を言ってしまった。


「二円じゃなくて、お買い上げありがとうございます、だろ」


「えっ、あっ、はい」


零士は私の反応を見て笑った。少しからかうようなイジワルな感じで。


「すみません、もう時間なんで」


スタッフのお兄さんに追い出されそうになる私。

そんな私の手を零士が掴んだ。


「いいから。こいつオレの知り合い」


「そうなんですか、わかりました」


スタッフのお兄さんは奥へと去っていった。


「さて、どうする? ホテルでも行く?」


零士の筋張った指が私の頬に触れた。


「えっ、ちょ、ちょっと待ってください」


「そんな赤くなんなよ。冗談だって」


「もう、びっくりした」


「飯、行こう、飯」


「……うん」


大和と留衣はマネージャーの運転するワゴンで先に帰ったそうだ。