一番困ったのは煙草。

お母さんを思い出すからではなく、煙草の銘柄と商品が合致しないのだ。

なんとかのなんミリとか、似たようなのがいっぱいあって。

迷っていると「そこにあんだろ!!」って言われたりして……。

パズルのピースを探す方が簡単だと思った。

買う方は自分が常に吸っている煙草だからよくわかっていて当たり前だけど、私はお客さんの煙草の好みまで把握できない。


この前は、お弁当を温めている途中で帰ってしまったお客さんがいた。

慌てて追いかけると、歩道橋の上にそのお客さんの姿が見えた。

階段を駆け上がる。躓きそうになったけど、お弁当と自分の身を守り抜いた。

走る度に膝を擦り剥いていたらやってられない。


「すみませーん。お弁当、忘れてますよ」


お腹の底から声を出すと、やっと振り向いた。


「あー、どうも」


会話はそれだけ。自分で買ったお弁当を持たずに店を出て行ってしまうなんて、まるで私みたいだ。