泣いた後、まぶたが腫れるのは、助けてほしいというサイン。
できればお父さんとお母さんが帰ってくる前に腫れが引いてほしい。
仕事を終え、疲れて帰ってきた二人に心配をかけたくないから。
「梨織はさ、天野くんからなにも聞いてなかったの?」
「うん」
「そっか。なにもこんなに急にいなくならなくても、ね」
「私、天野くんが運命の人なんじゃないか、って思ってたんだ。ほんとバカだよね。ひとりで浮かれたりして」
「そんな事ないよ。だけど、もう忘れな。ルミも拓巳と佐伯先輩の事、きっぱり、さっぱり忘れるからさ」
そう言っているルミの目から涙が落ちた。
私はもう泣いてなんていない。
ルミが言う通り、忘れよう。そう心に決めていた。
ルミが帰り、お父さんとお母さんが帰ってきた時にはまぶたの腫れも引いていた。
気がつくと私はテレビをつけ、必要以上に笑っていた。
面白かったのかどうかは記憶にない。
お風呂に入ると擦り剥けた膝が傷んだ。まるでシャンプーが目に染みるみたいに。ルミが貼ってくれたリボン柄の絆創膏がひらりと剥がれ落ちた。
お風呂から上がり、タオルで拭いて、消毒液を垂らす。
皮膚の表面で吸収されなかった液が膝の裏へ回っていく。
消毒液を跳ね返す傷を新しい絆創膏で塞いだ。