走りながら電話やメールをしたけど、どれも通じなかった。

とにかく、あの赤い電車に乗って天野くんの家に辿り着かなきゃ。


私は駅を目指して走った。


額からは汗が流れ、髪を伝って雫が落ちる。

息が切れてうまく呼吸ができない。

曇り空なのに暑くてたまらない。

太陽は雲に隠れながら私を熱中症へ手招きしている。


それでも走る!!


走らなければ前には進めない。


「きゃっ」


横浜駅が見えた時、足がもつれて転んだ。

こんな時になにもない平坦な道で転ぶなんて本当にバカだ。

天野くんがいたら『梨織は天然だからな』って笑うだろうな。

天野くんの笑顔が私の頭に、くっきりと浮かんだ瞬間、メールの着信音がした。

きっと天野くんからだ。

転んだままケータイを見ると、ルミからだった。


《梨織、もう間に合わないよ。天野くん、今朝八時の飛行機に乗ったって。清水くんから聞いたから確かだと思う》


「ああ……終わっちゃった」

まだ終わりかどうかもわからないのに、私はそう呟いていた。


転んでも誰も手を貸してくれようとはしない。

みんな足早に横を通り過ぎていく。

ひとりで起き上がるしかないんだ……。


無気力で立ち上がると雨がぽつぽつと落ちてきた。

擦り剥けた膝から血が滲んでいる。

痛みなんて感じないけど、最悪だと思った。


最悪だと思ったけど、泣けなかった。私の涙はこの雨なのかもしれない。だから私はそのまま雨に打たれていた。