あと五日で夏休み。
雑誌の花火大会特集を見て、天野くんを誘おうと心に決め、学校へ向かった。
誘えばきっと喜んで一緒に行ってくれるはず。それを想像して浮かれ気分になっていた。
「梨織、天野くん来てないよ」
「ほんとだ」
天野くんは遅刻をしない人。
風邪でもひいたかな、と心配になった。
メールをしたけど返信もなくて。
チャイムと同時に雨宮先生が入ってきた。
「おはようございます。今日から夏休みの間、天野くんはご両親のいるアメリカへ行くそうです」
「えーいいなー」
男子の誰かがそう言った。
よくなんてないよ、なんで急に。私になにも言わずにいなくなるなんてありえないよ。
雨宮先生、そういうのはエイプリルフールだけにして。
その時点では余裕があった私の心。
「もしかしたらそのままアメリカで暮らす事になるかもしれません」
えっ……。雨宮先生の言葉自体が理解できなくて、身動きができない。驚くどころか体も心も停止してしまった、私の全てが。
「先生が冗談言うなんて珍しいですね」
ルミが私の不安を消し去るようにそう言った。
「冗談ではありません。先生も詳しい事情は聞いていないのだけど」
気がつくと、私はもう走り出していた。
停止していたはずの体が合図もなく勝手に動いていた。