翌日、ルミは何事もなかったかのようにいつもの通りだった。
「梨織は部活、決めた?」
「まだ」
正直、部活は人間関係が面倒で入りたくなかった。
「ルミは、バスケ部にしようと思う」
「ルミ、バスケ好きだったっけ?」
「全然。テニス部とかの方がモテそうだし。でもね、天野くん、絶対、バスケ部から声かかると思うんだよね。だから、同じにして接近するの」
放課後、ルミはバスケ部を見学に行った。
私が教室で一人で待っていると、ドアが開いた。
入ってきたのは、なんと、天野蒼太。
私と天野くんの視線が合った。
すっきりとした切れ長の額縁。その中にある茶色いダークな瞳が浮かび上がるかのように明かりを取り込んでいる。
このまま吸い込まれてしまいそう。
私は自分の黒い瞳を隠すように視線を逸らした。
その瞬間、窓のカーテンが風をはらんだ。
淡いピンク色の桜の花びらが教室を舞う。
時が大きく動いた。
天野くんがカバンに教科書を詰めながら声を発したのだ。