気づかぬうちに愛着が湧いていた物たちが次から次へと運び出されていく。


引っ越しに執行猶予がほしい。必要になった時に取りに帰れるように。


実際問題として、そんなふうに未練を残していたら、一生捨てられない物ばかりだ。



家が空っぽになった。

お父さんの目に涙が浮かんでいる。私は気づいていた。だけど、なにも言えなかった。

見て見ないふりをする。

それが一番だと思った。


この家にはまだ返済しなければならないローンが残っている。

この家を売ったお金でそのローンを返済し、残りをお母さんが作った借金の返済に充てる。

家は売れたけど、預金はゼロ。


だけどお父さんが働いてきた歴史はちゃんと私の心に残っている。


いつか、あの家の前を通った時、プランターに花が咲いていたり、子供の笑い声が聞こえてきたらいいな。

犬や猫がいたらもっと嬉しい。


あの家が新しく巡り合った家族と幸せになれますように……。



私はルミの甥っ子ちゃんが書いてくれた画用紙をきちんと持って、住み慣れた家を後にした。