キッチンのシンクがピカピカになった。手をかければこんなに綺麗になるんだ。

私はこの家に住んでいるだけで、なにもしてなかったのだ。

ルミは「それはお母さんの役目だよ」と言う。


正直、私もそう思う。でもこの家を愛する気持ちを忘れてしまっていた。


窓ガラスも拭いた。

雑巾が真っ黒になった。

見て見ないふりをしているとこんなにも汚れてしまうんだ。

普段からもっと綺麗にしていたら、この窓から違う景色が見えていたかもしれないと今になって悔やんだ。


部屋が少しでも広く見えるように要らない家具は業者に持って行ってもらった。


どちらにしろ、引越す時に不要なものは捨てなくてはならない。



私たちの引越し先はお父さんが探してきてくれた。


ここから歩いて十分程の所にある賃貸マンションだった。


「ここなら梨織も転校しなくてすむから」と。


築年数は私の年齢と同じ十五年。

部屋は五階建ての三階。

見に行くと二LDKで今の家よりかなり狭かったけど、天野くんともルミとも離れなくてすむと安心した。