毎年恒例の母の日がやってきた。


これまで感謝の気持ちを込めてカーネーションを贈った事は一度もない。

でも今年は違う。



私はカーネーションを買いに商店街の中央にある花屋さんへ行った。


「いらっしゃいませ」


「こんにちは」


赤やピンクのカーネーションが色鮮やかに店先に並んでいた。


毎年この花屋さんで買っているから、お店のお姉さんとも顔馴染みだ。


「これください」


赤いカーネーションの鉢植えを取ると、お姉さんが言った。


「今年は鉢植えなの?」


「はい」


お姉さんはカーネーションの鉢にピンクのリボンを結んでくれた。


「はい、どうぞ」


「ありがとうございます」


大切に抱えるように持って帰り、お母さんに渡した。


「お母さん、ありがとう」と。


するとお母さんも「ありがとう。今までごめんね」と言った。


花瓶が割られてしまったから切り花ではなく鉢植えを選んだのだけど、それを選んで正解だった。


カーネーションに水を遣るお母さんの笑顔が、蓄積されてきたこれまでの犠牲という名の芽を摘んでくれた。