夕方、家に帰るとお父さんが私とお母さんをリビングに呼んだ。
雰囲気から楽しい話ではないと察した。
「この家、売る事にしたから」
それは借金返済のため。
せっかく壁の穴を埋めたのにその意味がなくなった。
ルミといた昼間の笑顔が嘘のよう。
もうこの家では暮らせなくなるんだ。
あまり良い思い出はないけど、それでも私が育った家。
これからもずっと、結婚するまで住むと思っていた家。
「あなた、やっぱり私と離婚して。それで梨織とこの家で暮らして」
「なあ、梨織はどう思う?」
お父さんが私に聞いた。
「私は……、うん、いいよ、この家売って。お父さんと二人で幸せになるよりお母さんと三人で幸せになりたい」
別にいい子ぶってなんていない。
この状況で猫を被る余裕はない。
「なら、決まりだな」
お父さんは私とお母さんの手を取ると三人の手を重ねた。
久しぶりに触れた二人の手。お父さんの手は厚みが増し、お母さんの手は痩せていた。