その虐待という衝動をなにか別のものに向けようと、ふとパチンコ屋へ足を踏み入れた。
初めてのパチンコで二千円が一万円になり、その高揚感が忘れられずに、パチンコにはまってしまったという。
ゲームが嫌いなお母さんがパチンコにはまるなんて、やっぱり世の中は想定範囲を超えている。
私が学校に行っている間は、ずっとパチンコ屋にいたそうだ。
お父さんに申し訳ないとパチンコ代のためにパートを始めた。
だけど、それでも足りずに、借金を作ってしまった。
そして、利息が高い所、高い所へと、借金が借金を生むという悪循環に。
それでも止められず、週三日しか勤務していないのに五日働いてると言い、空いた二日間は朝から夕方までパチンコをしていた。
私とお父さんは店長との関係を疑っていたから、その二日間は店長と会っているものだと思っていた。そうではなかったのだ。
お母さんは、お父さんに店長との事を疑われ、ケンカになり、思った。預金を下ろしてパチンコに使った上に借金があるなんて不倫よりひどいと。
私にはどっちが悪いかなんてわからないけど、お母さんがあの店長と不倫をしていなくてよかった、それだけは確実にそう思っていた。
お母さんは両手をついて謝った。
「梨織、ごめんね。あなた、ごめんなさい」
お父さんはなにも言わずにお母さんを抱き寄せた後、私の火傷の跡を心配してくれた。
だから、こう言った。
「もう跡もないし、過去の事なんて忘れたよ」と。
お父さんや私に迷惑をかけてはならないと家を飛び出し、借金返済のために工事現場で働いていたお母さんの額に滲んだ汗が、私にはほんの少し勇ましく見えた。
夜の仕事をしなかったのもお母さんらしい。
寝起きはネットカフェ。
パソコンも漫画本もお母さんには無縁なはず。目的はシャワー。
ネットカフェをよく知らないけど、そこで何日も過ごすのは窮屈だっただろう。