我が家の前で滑り込むようにして止まったタクシー。
お母さんが先に降り、私は支払いをしてからそれに続いた。
お父さんが出てきた。玄関で待っていて、車が止まる音が聞こえたのだろう。
「涼子、どこに行ってたんだ」
「あなた……」
ここで揉めると近所のおばさんたちの噂という台風の目になってしまう。
「ねえ、中で話そう」
私はお父さんとお母さんを促すようにして、先に入れ、最後に自分で玄関の鍵を閉めた。
また三人でこの家で暮らしていけますように、と願いを込めて。
リビングへ入るなり、お母さんが全てを打ち明けた。
お母さんは優しい旦那さんがいて、私が生まれ、家も買って。
満たされているはずが、どこか虚しかったという。
出産を機に銀行員という仕事も辞めてしまった。
そんな中で幼稚園の役員を任された時は嬉しかったそうだ。
自分にも熱を入れられるものができたと。
遠足での付き添いや夏祭りの出店、運動会の準備、理事会への出席。
一生懸命取り組んだつもりだったが、ママ友たちに陰口を叩かれていた。
世の中から見捨てられたような気持ちになって。
なにか思い通りにならない事があると感情のコントロールができなくなり、私に虐待を。
お母さんも自分のお母さんに叩かれたり殴られたりしていたらしい。
だから、それはいけない事だと、頭の中でも心の中でも、それだけはわかっていた。