カフェを出て、急いでタクシーを止め、お母さんを乗せると私も乗り込んだ。
歩いて帰れる距離だけど、途中でお母さんが帰るのを嫌がった時、引き止める自信がなかったから。
タクシーの車内でお母さんは目をつぶり、ずっと俯いていた。
運転手さんもなにも話しかけてこない。
今日の天気の話とかラジオから流れている野球の話とか、なにかないのだろうか。
私もタクシーという空間の中でお母さんとなにを話せばいいのかわからない。
だから、車窓を見ていた。流れていく景色がスローモーションのように見え、一時停止した。
タクシーが赤信号で停まっただけなのに、一時停止は私とお母さんのように思えた。
私とお母さんの関係はずっと一時停止していたのだ。
リセットしてやり直したい。
信号のように赤、黄、青と何事も規則正しくいけば人生が狂う事はないのに。
「お母さん、あのカフェね」
私はデザインカプチーノの話をしようとしたけど、なんでもかんでも喋ればいいってものでもない。
お母さんはコーヒーより紅茶派だし。
口は災いの元。
ここでお母さんの機嫌を悪くしては、家で待っているお父さんに申し訳ない。