「流石!九鬼真弓」


十夜は足を前に踏み込むと、手で刀を回転させて刃を反対にすると、横凪ぎに払った。

ほぼ同じ軌道を、先程より深く刃が通った。

「邪魔だ!」

九鬼は一撃目を避けた体勢のまま、刀が水平になっているのを目で確認すると、爪先で、刃の横を蹴り上げた。

「な!」

刀が、しなった。

十夜は驚愕した。

目にも止まらないはずの刃の動きを見切っただけでなく、蹴りのタイミングを合わせるなど…神業だった。

タイミングが早ければ、足が切断されていただろう。

「フン!」

鞭のようにしなった蹴りは、刀が想定していない方向に負荷を与えることになった。

「馬鹿な!」

簡単に刀は折れた。

「どけ!」

折れた刀身が宙に舞うのを確認せずに、九鬼は手刀を十夜の首筋に差し込んだ。

「うぐぅ!」

喉は生身だった為、十夜は痛みよりも呼吸艱難に陥った。

膝から崩れていく十夜を、もう九鬼は見ていなかった。

その目は、プールから姿を現した巨大なロボットをとらえていた。

「嫌な予感がする!」

走り出そうとする九鬼の背中を崩れ落ちながらも、十夜は睨んでいた。

(俺を無視するな!)

声にならない叫びを上げると、十夜の肘から下の両腕が外れた。

そして、猛スピードで九鬼の足と首に向かって飛んでいく。



しかし、その両腕は九鬼にたどり着くことはなかった。

突然現れた二つのリングが、両腕を切り裂いたからだ。

(な!)

十夜は目を見張った。

光のリングは、一瞬で移動し…十夜の体を切り裂いた。

(こ、こんな技を…いつのまに)



十夜の腕が飛び、リングが切り裂くまで…ほんの数秒の出来事だった。


十夜の膝が、地面につくと同時に、体から鮮血が飛び散った。

(流石…我が好敵手)

十夜は微笑みながら、前のめりに地面に倒れた。