「美和子さん…ここは」

九鬼が連れてこられたのは、放送室ではなかった。

プールから一番遠い…南館の屋上だった。

頭上に浮かぶ赤い月が、異様に輝いていた。

「放送室に行っても意味が、ありませんから」

美和子は、九鬼と少し距離を開けると微笑んだ。

「だって…生徒達のほとんどは、眠っていますから」

「何ですって?」

九鬼は美和子から、あり得ないものを感じていた。

殺気だ。

「私達…防衛軍に所属する者以外は、眠って頂きました」

思わず構えた九鬼に、さらに笑いかけると、言葉を続けた。

「だけど、それは…生徒達の為なんですよ。何も知らずに、死んでいけるんですから!」

「美和子さん!」

美和子の目が、スゥと細められていく。

「生徒会長。あなたは、生徒会長としては優秀で、尊敬しております。だけど…防衛軍の立場からしましたら、単に邪魔な存在なだけ」

美和子の瞳が、赤く輝いた。

「月の女神は、我々と契約した。月の力を与えてくると」

そして、ゆっくりと間合いを詰めてくる。

「その代わり…条件を出して来たわ」

美和子の全身の筋肉が、躍動する。

「九鬼真弓!あなたを殺せとね」

「!?」

一瞬にして、間合いを詰めた美和子の手刀が、九鬼の首筋を切り裂こうとする。

しかし、ブリッジの体勢でそれを構わした九鬼は、逆に跳ね上げた足で美和子の首筋を狙う。


「フッ」

美和子は左腕でガードすると、力任せに九鬼の足を払った。

その勢いを利用して、九鬼は手を地面につけると、回転して立ち上がった。


その瞬間、美和子の手刀が九鬼の顔面を狙う。

咄嗟に首を曲げて、手刀をかわしたが、頬が切れた。

鮮血を飛ばしながら、九鬼は右にジャンプして間合いを取った。


「こ、この力は!?」

明らかに、今までの美和子の動きではない。

「どうした?早く乙女ブラックに、変身しないのか?」

美和子は笑った。

さらに、瞳を赤く輝かせながら。