「闇は…」

理香子は足をゆっくりと下ろすと、

鼻がつぶれた男を睨んだ。

「許さない!」



「へえへえ…あんたでもいいや」

男の顔から、つぶれた鼻が押し戻されると、

そのまま床に落ちた。

そして、新たなる鼻…というか、角が突き出た。


「理香子!」

リオは、上半身を起き上がられた。

「…」

無言の理香子の前で、男の姿が変わる。

下半身の筋肉だけが盛り上がり、

突進に秀でた体型になった。

「お前を突きたい!」

鋭利な刃物のようになった新しい鼻を向けて、男は理香子に襲いかかる。


理香子は視線を外さずに、ただ仁王立ちになる。



「突きたい!突きたい!」

一瞬で間合いに入った男の鼻が、理香子のお腹の下辺りに、突き刺さったと、


リオはそう思った。


「理香子!」

リオの絶叫は、

次の瞬間、

驚愕に取って変わられた。

「!?」



男の鼻は、


理香子には、


突き刺さっていなかった。


「え」

リオは、乙女ケースを手にすることも忘れ、

ただ茫然としてしまった。



理香子と男の間に、


プラチナの乙女ケースが割って入り、

男の鼻を受け止めていたのだ。

どんなに力を込めても、びくともしない乙女ケースに、男は苛立った。

歯を食い縛り、足に力を込めた。

コンリートの床が削れるが、

男は、前に進むことはできない。


「…」

理香子は冷ややかな目で、その様子を見下ろすと、

「フン」

突然鼻を鳴らし、

男の胸元を蹴り上げた。


「何い!」

明らかに、通常より質量が増しているはずの男の巨体か、宙に舞う。


理香子は一瞬で男の後ろに移動すると、回転し、

空中に舞っている男の首筋に蹴りを入れた。


まるで、サッカーボールのように空中で弾かれた男は、

そのまま屋上のフェンスを突き破り、下へと落ちていく。

「理香子?」

リオは、理香子の信じられない戦闘能力に戦慄した。